銀河丼をモチーフに作っていただいたもの、銀河丼で生まれたものを展示しています。
歴史を辿れるよう、概ね完成日順で掲載させていただきました。 (グルーピングの関係で一部前後します。)
作品の権利等はそれぞれの作者に帰属します。 この展示に関するお問い合わせ、ご要望はくまかんまで。
11月の空は高く、街路樹は赤く染まっていた。行き過ぎる風が冷たくなっても、わたしは自分を誤魔化すように薄手のシャツばかり着ている。 あなたと別れたのは冬だったから、わたしはどうしても寒い季節が好きになれません。かじかんだ指先が、もうどこにも届かないことを悟った日、もう消えてしまいたいと思った。 空を覆い尽くす鱗雲を見るたび、泡になった人魚の話を思い出す。あともう二週間もすればあの雲すら跡...
いつも同じ場所に立ち尽くす。空は何処までも青く、全部終わったような顔をしている。きみのいる都会では環状線が走るけれど、田舎のこの町では2両編成の電車が行ったきり帰ってこないよ。あの日も空は雲ひとつなく、嫌味のように青かったね。きみは悲しいと言っていた。 悲しみの色も忘却の色も青い。そう僕は思う。 絵を描くきみは青が好きだと言って、僕の絵をいつも青く塗った。僕の中のきみの笑顔もいつの間にか...
生まれた町から逃げるように出てきた。大切だった景色も思い出もすべて残したまま、電車に乗る。 振り切るような速さで車輌は走る。 夜に包まれた駅は何処もよく似ていた。降りるべき駅を知らぬうちに過ぎてしまったのではないかと疑う、仄暗いわたしの顔を車窓が映す。 これから夜は長くなるばかりだろう。夜明けは遠ざかるばかりだろう。何処もよく似た夜の町並みは、一様にわたしを潰すかもしれない。わたしを生...
真っ黒に焦がしたパンケーキを、誤魔化すようにシロップをかけた。行き過ぎるのがわたしの悪い癖だ。火力は弱くたって、いや弱い方が、ずっと綺麗に仕上がるのにね。いつも手遅れになってから気付いて、シロップをべたべたに浸したってもう何にも取り戻せない。 ねえ、二人分のパンケーキ、あなたのは凄く綺麗に焼けたよ。なのにもう、何にも取り戻せないね。
[2017/8/23]
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突き刺すような夕陽に目を細めた。踏切を渡った君が振り返る。逆光になった姿は、世界に焼きついた影のようだった。僕に手を振る君の表情は見えない。降りる遮断機。高く鳴るシグナル。通過する車両。気付けば西日の中に君の形はなく、僕はその名前さえ思い出せないことを思い出す。 世界は何かを忘れたとき、前に進むそうだ。忘却はエントロピーを増加させ、世界を一歩終わりに近づける。 「許したことほど簡単に忘れ...
見上げた空で隣り合う星たちは、本当は何億光年と離れているし、片方はもう存在しないかもしれない。それでもふたつの光を線で繋ぐ星座の在り方を、 「祈りのようだね」 と君は言った。 朝を迎える空が白んで、星と君を消していく。 「何で死のうと思ったの」 疑問符はもう、何処にも繋がらない。明るくなる空を見上げ、わたしは祈るように、手を合わせた。
[2017/8/19]
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宇宙は広がっている。古い場所ほど離れていって、遠ざかる星は赤く見えるそうだ。
遠い星ほど赤方偏移は激しくなる。
それならばきっと、眩しかった過去も赤く染まりながら遠ざかるはずだ。踵を返せば、遥か彼方からけたたましいほどの赤い光。振り返るわたしへの警告にも見えた。もう戻れないのと告げる信号。まぶたの裏に焼きついた光を振り切るように、わたしはもう一度前を向いた。
[2017/8...
村谷由香里さん主宰の、月をテーマにしたイラストと文章の本です。 表紙・イラストで参加させていただきました。
¥400 A5 / 34p / モノクロ
参加者(敬称略) ●イラスト ハガミ Kuroishi Sayako ちーのすけ Yuri Matsumoto ●文章 立春 一花 村谷 由香里
月をテーマにしたイラストと文章のアンソロジーです。 10/28 第四回文学フリマ福岡 11/25 第二十七回文学フリマ東京 にて頒布します。 A5/34P/400yen
【イラスト】 ハガミ 黒石 紗弥子 ちーのすけ Yuri Matsumoto
【文章】 立春 一花 村谷 由香里
「忘れないで。消さないで。もう二度と帰れなくても」
交通事故に遭い、記憶障害を患ってしまった「僕」は、気がつけば白いプラットフォームに立っていた。 僕を待っていたという女性とともに電車に乗り、次の駅に向かう。 そこにいたのは「世界から失われたものたち」だった。
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村谷由香里初の個人本です。 表紙/ナカミツ A6/122P/800円
小説家・村谷由香里がつくる「水のない海」という物語。 そのプロットと呼ばれるお話の断片や源ができあがる過程を、演劇として上演します。 現実から虚構が生まれるまでの流れを追体験することで、リアルとフィクションの境界を劇場で体感していただきます。観劇後、みなさまには小説「水のない海」をお渡しします。
2018.11.10土曜日 19:30 start (19:00 open) 会場...
父の死の知らせを受け故郷に戻った僕は、海を見下ろす高台で一人の女性、紅野海月と邂逅した。僕は運命めいたものを感じ、次第に海月に惹かれていくが、彼女に課された宿命と、その正体を知ることになる。
「ねえ……人間は昔、今とは別の姿をしていたのよ」 海月はそう言った。 「かつて人間には、頭が二つ、手足が四本あってね、彼らは強大な力を持っていたの。やがて人間の力を恐れた神様は、人間を真っ二つ...
9歳の誕生日の翌日に、母親がいなくなった。 母という大きな存在が欠けた世界に、あのころどうやって折り合いをつけていたのか思い出せない。ただ、父と二人で生きていかなければならないことだけはわかっていた。祖父母の家は遠く離れているし、他に頼る人もいなかった。父は変わらず仕事に行って、夜まで帰ってこない。
そんなときに、メーは僕の前に現れた。 (アリオトvol.4掲載 イラスト/黒部想太)
大学三年生になって所属された数学ゼミには、水野浩樹という院生の先輩がいる。 はじめて自己紹介をしたとき、彼は言った。 「目が悪いので、もしかしたら迷惑をかけるかもしれません。僕には、猫と人の違いが、あまりわからないんです」
彼は、自分以外の人間がすべて猫に見える。わたしは灰色の猫だと言って、彼は微笑んだ。 自分の見ている世界が、好きな人の見ている世界と同じとは限らない。 人は永...